肩関節周囲炎(五十肩)

<疫学・背景>
50歳代を中心に多発し、肩関節に痛みと運動制限をもたらす疾患の総称。日本では五十肩と同義語的に解釈されている。

<原因>
中年以降、特に50歳代に多くみられ、その病態は多彩。関節を構成する骨、軟骨、靱帯や腱などが老化して肩関節の周囲に組織に炎症が起きることが主な原因と考えられている。肩関節の動きをよくする袋(肩峰下滑液包)や関節を包む袋(関節包)が癒着するとさらに動きが悪くなる(拘縮または凍結肩)。

<診断>
圧痛の部位や動きの状態などをみて診断する。肩関節におこる痛みには、いわいる五十肩である肩関節の関節包や滑液包(肩峰下滑液包を含む)の炎症のほかに、上腕二頭筋長頭腱炎、石灰沈着性腱板炎、肩腱板断裂などがある。これらは、X線(レントゲン)撮影、関節造影検査、MRI、超音波検査、各徒手検査などで区別する。

<一般的な治療>
自然に治ることもあるが、放置すると日常生活が不自由になるばかりでなく、関節が癒着して動かなくなることもある。
急性期、拘縮期、慢性期と進み、自発痛・夜間痛などの症状が出る痛みが強い急性期には、三角巾・アームスリングなどで安静を計り、消炎鎮痛剤の内服、注射などが有効とされている。急性期を過ぎたら、関節が動かしにくくなる拘縮期となり、この頃から病院では積極的なリハビリが行われるようになる。内容としては、温熱療法(ホットパック、入浴など)や運動療法(拘縮予防や筋肉の強化)などが主に行われている。これらの方法で改善しない場合は、手術(関節鏡など)を勧めることもある。

ムチウチ症(頸椎捻挫)

<疫学・背景>
むち打ち症とは、一般的に、追突事故などによって、頭部が鞭の動きのように前後に過度の屈伸をし、首の組織に損傷を生じたために起こる症状と言われている。
むち打ち損傷は、損傷そのものではなくその損傷を負うこととなった原因を示す用語で病名ではなく、医師の診断書に「むち打ち症」とは記載されず、「頸椎捻挫・頸部捻挫・頸部損傷・頸部挫傷・外傷性頸部症候群」等と記載されるのが通常。

<原因>
「頚椎捻挫型」「根症状型」「バレ・リユウー症状型」「脊髄症状型」「脳髄液減少症」に分類される。 ・頸椎捻挫型
交通事故による「むち打ち症」の約7~8割は、「頚椎捻挫」とされている。
自動車の衝突や追突により頸部が衝撃を受けることで、首の筋肉や靭帯、あるいは関節包(関節を包む組織)が損傷してしまうのが「頚椎捻挫」とされる。また、頚椎周りの筋肉を損傷した場合は、「頸部挫傷」と診断されることもある。

・根症状型
「根症状型」または「神経根障害」と呼ばれるむち打ち症は、神経がダメージを受けた場合に起こるもの。
首は7つの骨が積み重なってできている。この骨が交通事故などで衝撃をうけた際、それぞれが元の位置からずれてしまう事によって、骨の中を走っている神経が圧迫されたり、引き伸ばされたりすることにより、神経根症状が出る。

・バレ・リュー症状型
「バレ・リュー症状型」は、症状は「根症状型」に似ていますが、損傷を受けた神経が交感神経だった場合に起こる。
痛みやコリといった症状の他、めまいや耳鳴り、食欲不振や倦怠感など、自律神経を介した様々な身体症状が起こる状態。

・脊髄症状型
脊髄とは、脳から連続する中枢神経で、脊椎の中の脊髄腔を通っている。脊髄が損傷すると身体の麻痺、知覚障害、歩行障害が起こることがあり、下肢に伸びている神経が損傷すると下肢の痺れや知覚異常が起こり、歩行障害につながる。膀胱や直腸の障害が起こり、排便・排尿に支障をきたす恐れもある。後遺障害として残ってしまう可能性が高く、「むち打ち症」の中でも最も深刻なケース。

・脳脊髄液減少症
「脳髄液減少症」あるいは「脳脊髄液減少症」は、直接首の神経や軟体組織がダメージを追う症状ではない。脳は外部からの衝撃を軽減させるために脳脊髄液と呼ばれる液体の中に浮いている。この脳脊髄液を包んでいる膜が交通事故などの強い衝撃で破れ、脳脊髄液が漏れてしまうことがある。すると脳全体が沈んでしまい、さまざまな症状を引き起こす。

<診断>
ムチウチ症が交通事故を起点として起こることが多いため、MRIなどの画像診断は特に用いられている。また、神経学的な検査として、ジャクソンテスト・スパーリングテスト・腱反射検査なども行われる。

<一般的治療法>
受傷直後は、なるべく首を動かさずに固定する。「ネックカラー」という固定具を装着するケースもある。
痛みが特に強いケースや、損傷が交感神経に及んでいるバレ・リュー症候群の場合などには、局所的に注射をすることで症状を抑えることもある。バレ・リュー症候群では「星状神経節ブロック」と呼ばれる神経ブロック注射が行われることが多い。

また、患部を温めて血行をよくすることにより、症状の改善を目指す。
症状が落ち着いてきたら、頸部を動かして運動療法をしたり、頸部を引っ張る牽引などのリハビリを実施する。

頸肩腕症候群

<背景・疫学>
上肢の長時間にわたる同一肢位の継続、反復によって、神経、筋の疲労を背景として発症し、頚椎から肩甲帯に及ぶ筋肉(僧帽筋、胸鎖乳突筋)の疼痛、肩、肩甲骨周囲、腕にかけての痛みやしびれなどを来す疾患。
現在では、パソコン操作で発症することが多く、若年層から発症し男性より女性に多く発症するといわれている。

<原因>
広義の頸肩腕症候群は、首(頸部)から肩・腕・背部などにかけての痛み・異常感覚(しびれ感など)を訴える全ての症例を含んでいる。この中で、他の整形外科的疾患(たとえば変形性頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群など)を除外した、検査などで病因が確定できないものを狭義の頸肩腕症候群と呼ぶ。
職業性のものであれば同じ動作を繰り返していたり、首や肩周り、腕、指に負担の多い作業に従事しているという場合に発症しやすいと考えられる。
近年ではパソコンの長時間使用、同じような姿勢をとりつづけているといった人もこのような症状に悩まされることが多い。若年層から起こり、男性より女性のほうがかかりやすいとされている。
加齢なども原因になりうる。職業性にかぎらず、育児やスポーツなども原因となることがある。

<診断>
痛みやこり感は常在性で、長期間の病期を経過した後に、腕のしびれ、後頭部痛や自律神経症状などが発生し症状は自覚症状が中心で、神経学的異常所見に乏しい場合に頚肩腕症候群を疑う。
MRIやレントゲン検査では発見出来ず、検査所見が少なく診断や立証の困難さが存在し、近似疾患の慢性疲労症候群や線維筋痛症、膠原病を疑い検査を行った過程で頚肩腕症候群であることが判明することもある。
頚椎椎間板ヘルニアとの鑑別で、ジャクソンテスト、

スパーリングテストを、胸郭出口症候群との鑑別でルーステスト、ライトテスト、

アドソンテストなどを行い、それらの所見が陰性であることを確認する。

<一般的治療法>
基本的には対症療法が行われる。
薬物療法

・・・非ステロイド性抗炎症薬、筋弛緩薬、精神的要因が強い場合は抗不安薬など。筋弛緩と抗不安の両方の作用を持つエチゾラムが使われることがある。

理学療法
・・・温熱療法、牽引療法など。

肩こり

<背景・疫学>
人間は二足歩行をするために、もともと首や腰に負担がかかりやすい体をしている。
首から肩にかけての筋肉が姿勢を保つために緊張し、血行が悪くなって、重く感じるのが肩こりである。
肩こりを引き起こす主な要因としては、筋肉疲労と血行不良、末梢神経の傷などが挙げられる。それらの要因が単独、または、互いに関連し合いながら肩こりを引き起こしている。
平成16年国民生活基礎調査では、男女ともに自覚症状として肩こりを訴える割合が高い。

<原因>
首や背中が緊張するような姿勢での作業、姿勢の良くない人(猫背・前かがみ)、運動不足、精神的なストレス、なで肩、連続して長時間同じ姿勢をとること、ショルダーバッグ、冷房などが原因になる。
特に肩こりを引き起こしやすい状態として、以下が挙げられる。
・同じ姿勢でのデスクワーク
・眼精疲労
・運動不足による筋肉疲労と血行不良
・ストレスによる緊張
・寒さによる肩の筋肉の緊張、自律神経の乱れ

<診断>
問診や神経学的診察、特に触診で僧帽筋の圧痛と筋緊張、肩関節可動域や頚椎疾患のチェックなどで診断する。
頚椎疾患、頭蓋内疾患、高血圧症、眼疾患、耳鼻咽喉疾患、肩関節疾患の随伴症状としての「肩こり」も少なくない。 <一般的治療法>
・マッサージ療法(筋肉の血流を改善させ、筋緊張をやわらげる)
・温熱療法(蒸しタオル、入浴などで筋緊張をやわらげる)
・運動療法(筋力強化)
・安静
・薬物療法(シップ薬、筋弛緩薬、局所注射など)
・姿勢指導

寝違い

<背景・疫学>
睡眠中に無理な姿勢を取ったり、無理な首の動かし方をすることで首の筋肉に負担がかかり、筋違えを起こして筋肉痛に似た痛みが生じる症状のこと。一種の結合織炎と考えられている。症状は軽い場合から重い場合まで様々であり、寝違えによってプロスポーツ選手が欠場することもある。
<原因>
検査や画像でとらえられるような変化がないのが一般的で、睡眠中不自然な姿勢が続いたために一部の筋肉が虚血状態となっている、前日などにいつもはしないスポーツや労働をして一部の筋肉が痙攣している、頸椎後方の関節包に炎症がある、などの原因が考えられている。筋肉の虚血・疲労や関節包に炎症を起こす原因は、上肢の使い過ぎ、同じ姿勢の持続などが考えられる。

<診断>
 起床時に痛くなり、数時間から数日で痛みが改善していくようなら、徐々に首を動かしていくことで治っていくのが一般的。痛みが強い場合には整形外科を受診し、手足のしびれはないか、手足の動きは正常か、深部反射は正常か、X線写真で骨が溶けたりしていないか、など鑑別をする必要がある。「寝違え」の場合には、首の動きは制限されていますが、上記の診察や検査では変化は認めない。

<一般的治療法>
第一に安静が必要であり、違えが起こった時には痛い方向には動かさずにいる方が良いとされる。医療機関では、消炎鎮痛のための湿布の処方。鎮痛消炎薬や筋弛緩薬の処方。筋肉のけいれんが原因の場合には、こむら返りの治療で使う漢方薬が有効なこともあり、痛い筋肉や筋膜に局所麻酔薬を注射する方法が有効な場合もある。

変形性膝関節症

<背景・疫学>
我が国は、高齢化社会を迎えて加齢変化を基盤とした変性疾患は確実に増加しており、整形外科疾患において変形性関節症(osteoarthritis:OA)は外来で最も多くみられる遭遇疾患の1つとなっている。その頻度は年々増加傾向にあり、60歳以上の約8割がX線学的に何らかのOAを持っているといわれている。変形性膝関節症は、OAの中でも最も頻度が高く、進行すれば歩行時痛のため日常生活動作が大きく傷害される。

<原因>
OAは、臨床的に、原疾患や外傷など明らかな要因に続発して起こる二次性OAと原因不明な一次性OAとに大別される。また病因的な視点から生物学的要因と力学的要因に大きく分類される。また、最近ではさらに遺伝的要因が大きく影響していることが明らかにされてきた。もちろんこれらの3つの要因を明確に分離することは難しく、お互いに密接に影響しあいながらOAの病態は形成されている。
生物学的な要因としては、
・加齢に伴う軟骨組織の変性によるもの
力学的な要因としては、
・身体所見(体重、下肢アライメントの不良)
・外傷(膝関節内)の既往
・軟骨自体の損傷、靭帯損傷、半月板損傷
・職業、スポーツによるオーバーユース(使いすぎ)障害
・炎症性関節炎の既往(関節リウマチ、化膿性関節炎、骨壊死、結晶誘発性関節炎、滑膜性骨軟骨腫症など)
・隣接関節の影響(発育不全性股関節脱臼など)

<診断>
問診や診察、時に触診で膝内側の圧痛の有無、関節の動きの範囲、腫れやO脚変形などの有無を調べ、X線(レントゲン)検査で診断。必要によりMRI検査も行われる。

<一般的治療法>
症状が軽い場合は痛み止めの内服薬や外用薬が処方され、必要に応じ膝関節内にヒアルロン酸の注射が行われる。また大腿四頭筋強化訓練、関節可動域改善訓練などの運動器リハビリテーションを行ったり、膝を温めたりする物理療法が行われる。足底板や膝装具を作成することもある。

このような治療でも治らない場合は手術治療も検討される。これには関節鏡(内視鏡)手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術などがある。

腰痛

<背景・疫学>
腰(脊柱)に由来するものと、それ以外のものに大別される。
・腰(脊柱)に由来するもの
先天異常や側弯症、腰椎分離症など主に成長に伴っておこるもの、変形性脊椎症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変性すべり症など主に加齢により生ずるもの、腰椎骨折や脱臼などの外傷、カリエスや化膿性脊椎炎などの感染や炎症によるもの、転移癌などの腫瘍によるものなどがある。
・それ以外のもの
解離性大動脈瘤などの血管の病気、尿管結石などの泌尿器の病気、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科の病気、胆嚢炎や十二指腸潰瘍などの消化器の病気、変形性股関節症などの腰以外の整形外科の病気によるものがある。加えて身体表現性障害、統合失調などの精神疾患や精神的なストレスによる心理的な原因による場合もある。

平成16年国民生活基礎調査では、日々の生活の中で感じる自覚症状として、男性では1位、女性では2位という結果が出ており、日本国民の多くが腰痛症に悩んでいることが分かっている。

<原因>
原因はさまざまであるが、症状の発症起点によって急性腰痛と慢性腰痛に分けることができる。 ・急性腰痛(ぎっくり腰)
ぎっくり腰に代表され、突然、激痛に襲われるもので、この痛みは腰を五寸釘で打たれているようだとも表現される。次のようなことが要因で起こる。 ・重い物を持ち上げた瞬間、腰をひねる、かがむなどの不自然な動作によるもの
・転倒事故、腰を強く打ったなどの外からの衝撃や寒冷などの環境によって起こるもの ・慢性腰痛
激痛ではなく、だるくて重い、張る、凝るような不快な長引く痛みになやまされるのが特徴。原因としては以下のようなことが挙げられる。 ・長時間のデスクワーク、立ち仕事といった静的、動的な動作、寒冷など職場や生活の環境が要因となるもの
・肥満、運動不足などの生活習慣や老化によるもの
・ストレスや不安など心理的な要素が影響するもの
・消化器疾患、循環器疾患、泌尿器疾患、婦人科疾患など、病気が原因となって併発しているもの

<診断>
様々な原因があり、また病態により治療法が異なるため、正確な診断が重要。必要に応じてX線(レントゲン)検査、MRI検査、骨シンチ、筋電図検査、血液・尿検査などを行う。 <一般的治療>
内服薬、ブロック注射療法、コルセットなどの装具療法、温熱、牽引などの理学療法、運動器リハビリテーション、手術治療がある。

椎間板ヘルニア

<背景・疫学>
椎間板ヘルニアは、下位腰椎

(L4/5,

L5/S1)

が最多で、次に下位頸椎に多く、胸椎には少ない。胸椎に少ないのは、胸郭により、椎体間の可動性が頚椎や腰椎に比べ少ないためである。また、神経根走行の関係から、下位腰

椎では上位腰椎に比べ、神経根症状を起こしやすく、高齢になると下位頚椎での可動性が減少しヘルニアが起こりにくくなり、比較的上位の頚椎病変を来しやすくなる。椎間板ヘルニアは、よく動く脊椎の部分で起こりやすい疾患である。

背骨と背骨の間にある椎間板というクッションが何らかの原因によって破れ、神経などを圧迫することで起こるもの。どの部位の椎間板に問題が起きたかによって、頸椎・胸椎・腰椎椎間板ヘルニアと分かれる。

<原因>
何らかの要因で外側の繊維輪に亀裂が入り、その部分で椎間板に外圧が加わることで中の髄核が突出することで発生する。突出した髄核が神経を圧迫することで、腰や下肢(脚部)の痛みなどが現れるようになる。

<診断>
・腰椎椎間板ヘルニアの場合
下肢伸展挙上試験や下肢の感覚が鈍いかどうか、足の力が弱くなっていないか等で診断します。さらに、X線撮影、MRIなどで検査し診断を確定する。

・頚椎椎間板ヘルニアの場合
頸椎を後方や斜め後方へそらせると腕や手に痛み、しびれが増強する。
その他、手足の感覚や力が弱いこと、手足の腱反射の異常などで診断する。

<一般的治療法>
・腰椎椎間板ヘルニアの場合
痛みが強い時期には、安静を心がけ、コルセットを装着する。また、消炎鎮痛剤の内服や坐薬、神経ブロックを行い、痛みをやわらげる治療がされる。痛みが軽くなれば、牽引などの理学療法や運動療法を行うこともある。
これらの方法でよくならない場合や下肢の脱力、排尿障害があるときには手術を勧められることがある。最近では内視鏡を使った低侵襲手術も広く行われるようになってきている。

・頚椎椎間板ヘルニアの場合
痛みが強い時期には、首の安静保持を心掛け、頸椎カラー装具を用いることもある。また、鎮痛消炎剤の服用や、神経ブロックなどで痛みをやわらげる治療がされる。
症状に応じて牽引療法を行ったり、運動療法を行ったりすることもある。
これらの方法で症状の改善がなく、上肢・下肢の筋力の低下が持続する場合、歩行障害・排尿障害などを伴う場合は手術的治療を選択されることもある。

関節炎

<背景・疫学>
関節内に炎症を生じる病気のこと。原因は多岐にわたり、リウマチなどの関節に炎症を生じる病気、外傷や関節の変性、細菌感染などが挙げられる。
ヘバーデン結節はじめ、変性関節疾患は女性に多くみられる。

<原因>
関節炎の原因は非常に多くのものが挙げられる。その分類方法も多々あるが、発症の経過による急性・慢性、発症する関節の数によって分類されること多く、それぞれの原因は以下の通り。

・急性単関節炎
主な原因は、関節内への細菌感染や過度な運動による関節内摩擦など。また、痛風や偽痛風など、関節内に結晶を形成する病気でも関節炎を発症することがある。
・急性多関節炎
多くはウイルス感染が原因。代表的なウイルスには、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVや風疹、パルボウイルスなどが挙げられる。また、感染性心内膜炎によって血行性に関節内細菌感染を生じて、二次的な関節炎を生じることがある。
・慢性関節炎
加齢による変形性関節症、外傷などによる非炎症性と結核感染などによる感染性に分類される。
・慢性多関節炎
関節リウマチやエリテマトーデスなどの自己免疫疾患が主な原因として挙げられるが、痛風や偽痛風などの関節内結晶による関節炎がいくつかの関節に生じて炎症が慢性化することもある。
また、皮膚疾患であるも関節炎を引き起こすことが知られている(乾癬性関節炎)。最近では乾癬性関節炎と類似疾患をまとめて脊椎関節炎と総称することも多くなっている。

<診断>
関節炎の検査では、関節の状態を確認する検査と、関節炎の原因を調べる検査が行われる。関節の状態を確認する検査では、関節の腫れや圧痛、関節液貯留の有無などを調べる身体診察、レントゲン・CT・MRI・超音波などの画像検査が行われる。
関節液検査は関節炎の原因を鑑別するうえで重要な検査であり、色や性状、含まれる白血球数、結晶の有無などによって、ある程度の鑑別(見わけること)を行うことができる。また、細菌性が疑われる場合には、培養を行って原因菌を見きわめる検査が行われる。

<一般的治療法>
感染性によるものでは、原因菌に適した抗菌薬の投与や手術による関節内部の洗浄が行われる。また、痛風や偽痛風などの関節内結晶が原因の場合には、原因疾患に対する治療を第一に行われる。関節の痛みが強い場合には鎮痛薬の内服などの対処療法が行われている。
また、軟骨の破壊が著しい変形性関節症では関節内にヒアルロン酸注射などが行われる。対処療法によっても症状が改善せず、歩行障害など日常生活に支障を生じているようなケースでは、人工関節置換のための手術が行われることもある。
さらに、リウマチをはじめとした自己免疫性疾患が原因の場合には、それぞれの病気に合わせた治療が行われている。症状が悪化して、関節の変形や不安定性が生じた場合や痛みがひどい場合には、手術が行われることもある。

リウマチ

<背景・疫学>
関節リウマチとは、関節の内面を覆っている滑膜に炎症を起こし、関節の痛みや腫れ、こわばりなどを引き起こす自己免疫性疾患。
自己免疫性疾患とは、自分の免疫システムが誤って自分の正常な細胞を攻撃してしまう病気を指す。進行すると関節周囲の軟骨・骨が破壊され、関節の変形、癒合などを引き起こし、日常動作や生活が損なわれてしまう。30~50歳代の女性に多いとされているが、どの年齢層でも発症する可能性がある。

<原因>
関節リウマチは、本来、細菌やウイルスなどから自分を守るはずの免疫機能が、何らかの異常により自分の体の一部である関節に対して働き、痛みや炎症を引き起こすと考えられている。しかし、発症にいたる詳しい原因についてはわかっていない。
免疫の異常は、遺伝的な要因とウイルス感染などの外的な要因が重なることで起こると考えられている。しかし、実際に病気として遺伝する確率はそれ程高くはない。
また、外的な要因として、喫煙などの環境因子が関節リウマチの発症や症状の悪化に関係しているといわれている。

<診断>
関節リウマチの検査には、血液検査や画像検査があります。これらの検査結果と症状を組み合わせて診断する。
・血液検査
関節リウマチになると、血液検査において、CRPという体内の炎症反応を示す値や、軟骨の破壊に関係しているMMP-3という値が高くなる。また、リウマチ因子や抗CCP抗体という値が高くなることが多く、診断に有効とされる。
・画像検査
画像検査では、関節のレントゲン検査で骨びらんなどの骨の変化を調べ、超音波検査やMRI検査で関節滑膜の炎症の有無、骨や軟骨の変化を調べる。

<一般的治療法>
関節リウマチの治療の原則は基礎療法・薬物療法・リハビリテーション・手術療法とされる。治療の選択は、病気の重症度・合併症・日常生活の不自由さなどを総合的に判断して行われている。
関節リウマチの関節の破壊は、発症して2年以内に急速に進行することがわかっており、一度破壊された軟骨・骨・関節は元に戻すことができないので、早期診断・早期治療が重要である。
変形した手指を補助する目的で、リーチャーなどの自助具が用いられることもある。

テニス肘

<背景・疫学>
体の中で、日常よく使われるのが上肢であり、そのうち肘外側の疼痛を通称テニス肘と呼ぶ。テニスのストローク、特にバックハンドのストロークのときに痛くなるとされるが、テニスが原因となるのは1割弱といわれている。

<原因>
一般的には、年齢とともに肘の腱が傷んで起こる。
病態や原因については十分にはわかっていないが、雑巾絞りのような動きで、主に短橈側手根伸筋の起始部が肘外側で障害されて生じると考えられている。

この長短橈側手根伸筋は手首(手関節)を伸ばす働きをしている。

<診断>
疼痛を誘発する試験で診断する。
以下の3つの検査が一般に用いられている。いずれの検査でも肘外側から前腕にかけての痛みが誘発されたら、テニス肘と診断される。
・トーマステスト
・中指伸展テスト
・チェアテスト

<一般的治療法>
手首や指のストレッチをこまめに行う指導がされる。
スポーツや手をよく使う作業をひかえて、湿布や外用薬を使用する。疼痛が強い場合は肘の外側に局所麻酔薬とステロイドの注射が行われる。
保存療法が無効な場合には、筋膜切開術、切除術、前進術、肘関節鏡視下手術などがある。

腱鞘炎

<背景・疫学>
腱鞘炎とは腱鞘に何らかの理由で痛みや通過障害を起こすことをいう。
腱は骨と筋肉とをつなげる線維性の結合組織で、腱は腕から指まで束状に何本も通っており、腱のはたらきによって指の曲げ伸ばしや手首の動きが可能になる。そして複数の腱をおさめる腱鞘があることで、効率的に手の指や手首を動かすことができる。
腱鞘炎は、職業柄パソコンを使うことやものを書くことの多い方(物書きや事務作業員など)がなりやすいといわれている。発症しやすい部位は手首や指であり、それぞれドケルバン病やバネ指などと呼ばれる。

<原因>
腱鞘炎は、腱鞘の質の変化や手指の使いすぎによって発症する。腱鞘の質の変化とは、腱鞘が肥厚したり、硬くなったりすることを指す。また、加齢や糖尿病によって腱鞘の変化を生じることもある。親指を無理な形で使いすぎると、手首の親指側の腱と腱鞘に炎症が起こることがあり、この状態を「ドケルバン病」という。
また、キーボードを打つ、ものを書く、楽器を演奏する、など等の動作に関連して「バネ指」を発症することがある。バネ指になると、指がスムーズに屈伸できず跳ねるような動きになることがある(弾発現象)。

<診断>
腱鞘炎を疑う場合、基本的には触診などの診察を行う。
まずは患者さんから様子を聞き、腫れの有無を確認し、圧をかけて痛みの変化をみる。
手首の親指側の腱と腱鞘に障害が起こるドケルバン病の診断には、いわゆる「フィンケルシュタインテスト」を用いる。このテストは親指を他の指で握った状態で手首を小指側に曲げたときに罹患部における痛みを確認する検査法。

指の付け根に生じた障害であるバネ指では、同部位を押したときの痛みを確認する。罹患が疑われる部分を触知しながら、患者さんに指を動かしてもらい、腱の動きに抵抗が生じるかどうかを感知する。

<一般的治療法>
腱鞘炎の治療では、局所の安静をはかり、腱鞘炎による痛みや腫れに対応した治療がされる。
腱鞘炎を発症した場合には、原因となっている動作を制限することが治療の第一歩とされる。無意識のうちに動作をしてしまうこともあるため、テーピングや湿布を利用することもある。