神経系/頭痛 <背景・疫学> 外来初診患者の約10%が頭痛を主訴とする。 日本人の3〜4人に1人(約3000万人)が「頭痛持ち」と言われ、そのうち2200万人が緊張性頭痛、840万人が偏頭痛、1万人が群発頭痛といわれる。くも膜下出血などによる頭痛は、毎年約1万人〜 3万人に発生する。 また、日常生活に支障ある頭痛を、世界中で最低40%の人が経験すると言われる。 男性よりも女性のほうが頭痛の症状を訴えることが多く、筋緊張性頭痛の6割、片頭痛の8割が女性される。女性が訴えることが多い頭痛の1つに生理時に伴うものがあるが、これは生理中にエストロゲンが血中から減少し、それがセロトニンに何等かの影響を与えて片頭痛を引き起こしやすくなるからではないかとも考えられている。 <原因> ・緊張型頭痛 長時間のパソコン、携帯メール、ゲーム機の使用や車の運転など、不自然な姿勢を長時間続けること、また前かがみ・うつむき姿勢、高さの合わない枕の使用などがきっかけで発症することが多く、体の冷えなどによる身体的ストレスも原因となり得る。それに加え、不安、緊張、仕事のプレッシャーなどの精神的ストレスも神経や筋肉の緊張を高め、頭痛を誘引する。 頭痛のメカニズムは完全には判明されていないが、交感神経の過剰、筋肉の緊張による血管の圧迫、血液循環の不良などによって起きると考えられている。 また頭痛の原因はタイプ別に異なり、頭痛の頻度が少ない「反復性緊張型頭痛」は、肩こりなど筋肉の緊張が原因とされていて、一方で、頭痛がほぼ毎日の「慢性緊張型頭痛」は筋肉の緊張に加え、精神的なストレスも大きく関わっているとされている。 ・片頭痛 片頭痛が起こるのかに関してまだ詳しくは解明されていないが、脳の血管がなんらかの原因で収縮し、続いて血管周りの神経が刺激され、拡張することにより頭痛が起こるといわれている。 ストレスなどが原因で三叉神経から「痛み物質」が放出され頭痛が起こる、三叉神経血管説という考えも有力となっている。 頭痛発作の際に閃輝暗点などの前駆症状が出ることが多く、比較的女性に多く発現する特徴がある。 ・群発頭痛 原因ははっきりとは明らかになっていないが、脳の視床下部という場所に関係しているといわれている。視床下部が刺激されると、頭部の目の奥の辺りにある三叉神経が痛みを感じ、三叉神経の辺りの血管が拡張され、三叉神経がつながっている目の奥の辺りに激痛が起こる。頭痛の誘発原因としては、アルコールの過剰摂取やタバコ、気圧の急激な変化、不規則な時間帯の睡眠などが挙げられており、群発期にはこれらの要因を回避するように勧められている。 群発頭痛はキリで刺されるような強い痛みが特徴で、流涙などを伴うことが多く、比較的男性に多くみられる。 <診断> 基本的には医師による問診と診察から頭痛の特徴を割り出し、診断される。 頭痛には脳腫瘍・くも膜下出血、膠原病、緑内障などその他の病気が潜んでいる危険性もあるため、これらの可能性を除外するために、頭部CTやMRIなどの画像検査、眼底検査、眼圧検査、血液検査などを行うこともある。 緊張型頭痛を客観的に判断できる検査方法はなく、片頭痛や群発頭痛などとの鑑別を行うことが重要となり、片頭痛の場合には前駆症状としての閃輝暗点。群発頭痛の場合には激しい痛みと流涙などの症状が伴う。 <一般的治療法> 基本的に頭痛の治療は薬物などによる対症療法が行われることが多いが、脳の疾患がある場合はその原因を取り除く治療も行われる。また、頭痛を引き起こす原因が生活習慣に存在する場合は、それを改善し取り除くことも推奨される。主に対症療法として、痛み止めなどの薬剤が処方される。 なお、これら薬物を長期に渡って常用すると体が薬に慣れてしまって効きにくくなったり、「薬の効果が切れる → 薬を飲む」という悪循環に陥って「薬物乱用頭痛」と言われる症状が起こることがある。また、頭痛治療薬服用中にアルコール飲料を飲むことは、胃をあらす原因になったり、薬剤によっては体内で毒性の高い物質に変化するなどの弊害を起こすことがある。 神経系/神経痛 <背景・疫学> 神経痛は症状を表す言葉であり、実際には数多くの原因によって神経痛が引き起こされる。たとえば、以下が挙げられる。 三叉神経痛、肋間神経痛、坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛など <原因> ・坐骨神経痛・・・坐骨神経は主に臀部から大腿後面、下腿・足の感覚・筋肉を支配する。 腰部椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、変性側弯症、梨状筋症候群などによって引き起こされる神経痛。 ・三叉神経痛・・・三叉神経は顔面の感覚を支配している。三叉神経痛は、血管が神経に触れることが原因で顔面の一部に起こる神経痛。 そのほかにも、体内に潜んでいるウイルスの再活性化を原因として神経痛が生じることもある。再活性化は、ステロイドの使用や疲れ、睡眠不足、ストレスなどをきっかけとして起こり、手根管症候群と呼ばれる病気と関連して神経痛が生じることもある。 ・肋間神経痛・・・原因は様々で解明されていないものもあるが、明らかに原因がある場合を症候性肋間神経痛、明らかな原因がない場合を特発性肋間神経痛という。 症候性肋間神経痛の原因は、変形性脊椎症・胸椎椎間板ヘルニア・脊椎腫瘍など脊椎に原因がある場合、そして肋骨骨折や肋骨の腫瘍が原因となる場合がある。 これらが原因の場合は身体を動かした時、特に上半身を前後に曲げたり、左右に曲げたり廻したりすると痛みを強く感じることがあり、時には「息ができないほど痛い」こともある。 脊椎や肋骨に原因がない場合に起こる症候性肋間神経痛の代表的なものは、帯状疱疹後肋間神経痛である。 帯状疱疹は、帯状疱疹ウイルスが神経の中を通って皮膚に達して皮疹を起こす疾患だが、胸部に発症すると肋間神経痛を起こす。帯状疱疹による肋間神経痛は、皮疹の有無に関わらず「ヒリヒリ」「ジクジク」とした皮膚表面の持続的な痛みを感じる。 <一般的治療法> 痛みに対しての対症療法と原因疾患に対しての根治的な治療方法が行われる。対症療法としては、鎮痛薬の内服、神経ブロック(神経痛を起こしている場所に麻酔薬を注入)などが取り入れられる。 心理的な要因が痛みに関与している場合には、心理療法の導入も行われる。 根治的な治療方法として取り入れられるものは、原因疾患によってさまざま。 坐骨神経痛において、腰部椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の場合には、理学療法や装具治療などの保存的療法が行われるほか、場合により手術介入も検討される。 血管圧迫による三叉神経痛の場合、血管による神経圧迫を解除するための手術療法やガンマナイフ治療などが検討される。 顔面神経麻痺 <背景・疫学> 病気やけがなどによって顔面神経に障害が生じ、表情筋を動かせなくなった状態。 明らかな原因が特定されないものはベル麻痺と呼ばれ、顔面神経麻痺の約70%がこのベル麻痺とされている。 近年ベル麻痺の発症には以下が関わっていると考えられている ・ウイルス感染・骨による神経の圧迫・寒さのため神経に届く血の流れの悪化 ・ストレス・飲酒・疲労 また、外傷などで顔面神経が圧迫されることでも起こる。 統計的には人口10万人あたり年20-30人。男女問わず40歳代に最も多く見られる。 また、顔面神経麻痺は以下の2つに分けられる。 before after ・末梢性顔面神経麻痺 麻痺している側のおでこのしわ寄せができない ・中枢性顔面神経麻痺 両側のおでこのしわ寄せが可能 <原因> 中枢性顔面神経麻痺→脳梗塞など。 末梢性顔面神経麻痺→顔面神経が脳から顔に伝わる経路で障害が起きたもの。 抹消性には帯状疱疹後神経痛や聴神経腫瘍、原因不明のベル麻痺が含まれる。 <診断> 中枢性か抹消性かは、額のしわ寄せが可能かどうかがまず大きな鑑別となる。 また、耳の発疹や発赤を調べることで、診断の助けとなる場合がある。 ・血液検査 ・画像検査(CT検査、MRI検査) <一般的治療法> 顔面神経麻痺の明らかな原因がある場合には、その病気の治療を行われる。 原因が特定できない場合(ベル麻痺)には、以下のような治療が行われている。 ・ステロイド薬の使用 ・ビタミンB12の内服 発症してから早期の治療が重要だが、比較的経過は良好で、数か月で自然治癒することもある。外傷など顔面神経が圧迫されていることが原因の場合、顔面神経を圧迫する部位への手術療法が行われる。 自律神経失調症 <背景・疫学> 全身をコントロールする自律神経が様々な原因によって乱れて起こる。 <原因> 生活リズムの乱れ、過度なストレス、ストレスへの耐性、環境の変化、女性ホルモンの影響など様々な原因が組み合わさって起こる。 自律神経失調症は、以下のような4タイプに分かれる。 ・本態性自律神経失調症 子供の頃からの、元々持っている体質に原因がある。 自律神経の調節機能が乱れやすい体質のタイプ。 体力に自信がない虚弱体質の人や、低血圧の人に多く見られ、病院で検査をしても特に異常が見つからない。日常生活のストレスもあまり関係しない。 ・神経症型自律神経失調症 心理的な影響が強いタイプ。 自分の体調の変化に非常に敏感で、少しの精神的ストレスでも体調をくずしてしまう。感受性が過敏なため、精神状態に左右されやすいタイプ。感情の移り変わりが体に症状として現れる。 ・心身症型自律神経失調症 日常生活のストレスが原因。心と体の両面に症状があらわれる。 自律神経失調症の中で、もっとも多いタイプ。几帳両で努力家のまじめな性格の人がなりやすい。 ・抑うつ型自律神経失調症 心身症型自律神経失調症がさらに進行するとこのタイプになる。やる気が起きない、気分がどんより沈んでいる、といった「うつ症状」が見られます。肉体的にも、頭痛、微熱、だるさ、食欲がない、不眠などの症状があらわれる。身体の症状の陰に精神的なうつも隠れているが、病院へ行つても、身体症状を改善するための対症療法しか受けられず、長い間、不快な症状に苦しむ人が多い。几帳面な性格や、完全主義のタイプが陥りやすいとされる。 <診断> 自律神経症状の原因となる身体疾患が存在しないかどうかを鑑別することが重要であり、自律神経症状の他に錐体外路症状などの運動系症状がないか、抑うつ気分、意欲低下、全般性不安などの精神症状が共存していないか、注意深く診察される。自律神経機能検査を実施することもある。 <一般的治療法> 基盤になる身体疾患があれば、それに応じた治療がおこなれる。 心身のストレスに起因する自律神経の乱れには、可能な限り環境の調整を行い、十分な睡眠を取って休息を図ること、生活リズムを整えること、過度の飲酒やカフェインの過量摂取などの習慣を改めることも重要とされる。 対症療法として自律神経調整薬や抗不安薬、睡眠薬などが用いられる。背景にうつ病や不安症がある時は、SSRIなどの抗うつ薬も使用され、また自律神経症状へのこだわり、とらわれが強い症例には、森田療法や認知行動療法などの精神療法(心理療法)も適用される。 うつ病 <背景・疫学> 最近の国内調査では、DSM-IV(米国の診断基準)による大うつ病性障害の12ヶ月有病率(過去12ヶ月間に診断基準を満たした人の割合)は2.2%、生涯有病率(調査時点までに診断基準を満たしたことがある人の割合)は6.5%、ICD-10(世界保健機関の分類)診断によるうつ病の12ヶ月有病率は2.2%、生涯有病率は7.5%であり、これまでにうつ病を経験した人は約15人に1人、過去12ヶ月間にうつ病を経験した人は約50人に1人であるという結果となった。 <原因> 女性は男性の2倍程度、うつ病になりやすいといわれている。 うつ病が女性に多いことは、世界的な傾向であり、男女差の原因としては、思春期における女性ホルモンの増加、妊娠・出産など女性に特有の危険因子や男女の社会的役割の格差などが考えられている。また、うつ病は一般には若年層に高頻度にみられるが、うつ病の経験者は若年層と中高年層の2つの年齢層に多く、中高年層にも心理的な負担がかかっている可能性がある。 つらい被養育体験、最近のライフイベント(離婚、死別、その他の喪失体験というようなストレスとなった出来事)、心の傷(トラウマ)になるような出来事(虐待、暴力など)がうつ病の危険因子として、また社会的支援がうつ病の防御因子として報告されている。うつ病の特別な遺伝子はみつかっていないが、遺伝を脳内の神経伝達物質の代謝や受容体の遺伝子多型によって説明しようとする研究が急速に進んでいる。 脳の中では、情報を伝達するためにさまざまな神経伝達物質が働いており、そのうちセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンは、モノアミンと総称されている。一説に、うつ病は、このモノアミンが減ることで引き起こされるとされている。 <診断> うつ病などの気分障害の診断は、血液検査や画像検査から直接行うことが出来ず、患者さん本人の臨床症状や、家族のお話から判断する。また、診断が確定した後の治療としては、薬物療法と心理社会療法との2つに大きく分かれる。治療の場は外来治療と入院治療とがある。 <一般的治療法> 処方される薬は、ベンゾジアゼピン系薬剤を中心とする抗不安薬、抗うつ薬と抗精神病薬の3つに大きく分かれる。抗不安薬は服用して数十分で効き目が出ることが多いが、大量を長期間続けることの問題も指摘されている。一方で抗うつ薬は、服用してから効果があるまでに数週間から数か月かかるが、うつ病への薬物療法の中心となることが多い薬である。 抗うつ薬には、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI、SNRIなどの種類があります。十分な量を十分な期間服用することが大切とされている。 薬物療法以外には、認知行動療法、心理療法などがある。 うつ病は再び症状が出現することの多い病気とされる。回復後1年に約20%の患者さんに再び症状が出現するとされる。さらに、何度も繰り返すことよって、その割合は約40~50%に上がる。薬物療法の継続が大切で、もし中止すると半年後に再び症状が出現する危険性は2倍になるといわれている。 不眠症 <背景・疫学> 不眠症とは、入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害などの睡眠問題が1ヶ月以上続き、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現する病気。 不眠の原因はストレス・こころやからだの病気・薬の副作用などさまざまで、原因に応じた対処が必要とされる。不眠が続くと不眠恐怖が生じ、緊張や睡眠状態へのこだわりのために、なおさら不眠が悪化するという悪循環に陥る。 日本人を対象にした調査によれば、5人に1人が「睡眠で休養が取れていない」、「何らかの不眠がある」と回答している。また、加齢とともに不眠に苦しむ人の数は増加している。60歳以上の方では約3人に一人が睡眠問題で悩んでいる。そのため通院している方の20人に1人が不眠のため睡眠薬を服用している。 <原因> 日常生活の乱れ、外界からの刺激、ストレス、心身の不調、薬やタバコ、アルコールなどの刺激物の影響など、様々な因子がきっかけでおこる。 主に日常生活の乱れや外界からの刺激などで起こる不眠を機会性不眠といい、機会性不眠が心理的機構によって固着したものや、何の要因もなく発症するものを症候性不眠(神経症性不眠)という。 不眠症には、入眠困難、中途(早期)覚醒、熟眠障害、全く眠れないものなどのタイプがあり、心理的な作用が大きいほど熟眠障害などが強くなっていく。 <診断> 不眠が続くと日中にさまざまな不調が出現するようになる。症状は倦怠感・意欲低下・集中力低下・抑うつ・頭重・めまい・食欲不振など多岐にわたる。 「1. 長期間にわたり夜間の不眠が続き」「2. 日中に精神や身体の不調を自覚して生活の質が低下する」、このふたつが認められたとき不眠症と診断される。 <一般的治療法> GABA受容体作動薬やメラトニン受容体作動薬、オレキソン受容体作動薬などの薬物療法に加え、睡眠に対する誤った考え方や生活習慣を修正する認知行動療法や不眠へのとらわれを打破する森田療法が用いられている。 2良性頭位発作性めまい症 <背景・疫学> 耳の異常が原因で起こるめまいの中で最も多い病気といわれている。 頭を動かしたり、頭がある特定の位置に移動したりすると回転性のめまいが起こる。 具体的には、寝返りをうったとき、朝起床時に寝床から起き上がるときなどに、ぐるぐる回転するめまいが起こる。頭を動かした瞬間に始まり、ひどいめまいがするが、同じ姿勢でいると、すぐに軽快し消失する。持続時間は数秒から数十秒くらいである。 また、吐き気や嘔吐を伴うこともある。めまいを繰り返すと、徐々にめまいの症状は軽くなり、めまいは起こらなくなっていく。良性発作性頭位めまい症は、めまい患者さんの20%~40%を占めると報告されている。 <原因> 内耳に前庭と呼ばれるところがあり、そこに耳石という物質がある。 その耳石の一部がはがれて、内耳の別の場所(半規管など)に入り込んでしまうと、めまいが起こるといわれている。 “前庭にある耳石”、“半規管の液体(リンパ)の流れ”などにより、人は体の動きや傾きを感じている。耳石が半規管の中に入り込むことによって、リンパの流れが変わり、めまいを起こすと考えられている。 <一般的治療法> めまいの起こる頭の位置を繰り返してとることによって、慣れが生じてめまいが起きなくなっていくため、積極的にめまいを起こすなどの治療が行われる。 症状が強かったり、吐き気を伴うこともあるため、症状に応じて吐き気止めなどの薬が処方される。理学療法・運動療法も有効とされる。 【365日年中無休】 9:00~21:00 (年中無休)完全予約制 ( 当日予約可 ) TEL:03-6427-4207info@japan-health-office.com 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