咳・痰

<背景・疫学>
咳は、肺や気管などの呼吸器を守るために、外から入ってきたほこり、煙、風邪のウイルスなどの異物を気道から取り除こうとする生体防御反応である。異物が入り込むと、まず咽頭や気管、気管支など気道の粘膜表面にあるセンサー(咳受容体)が感じ取り、その刺激が脳にある咳中枢に伝わると、横隔膜や肋間膜などの呼吸筋(呼吸をおこなう筋肉)に指令が送られ、咳(せき)が起こる。この反射運動を「咳反射」という。
咳(せき)にはまた、気道にたまった痰を外に排出する役割もある。気道粘膜には細かい毛(繊毛)と、その表面を覆う粘液があり、粘膜の表面を潤して保護している。この粘液がウイルスや細菌などの病原体やほこりなどの異物をからめ取ったものが痰であり、気道に炎症があると痰が増え、粘り気が強くなる。痰は、外にむかって異物を追い出そうとする繊毛の運動と、咳反射によって外に出される。

<原因>
咳(咳嗽)は、風邪によるものから肺がんなど重い病気があるものまでさまざま。原因となる病気にかかってから3週間以内に収まる咳を急性咳嗽と呼び、3週間以上続くものを遷延性咳嗽、そして8週間以上を慢性咳嗽と呼ぶ。
急性の場合、風邪、急性気管支炎、インフルエンザが原因にあげられ、慢性の場合にはアトピー性喘息、慢性気管支炎、胃食道逆流症などがあげられる。

痰は原因により色や性状に変化が見られる。漿液性痰は無色透明で粘度が低くサラサラした性状を示し,気管支喘息,気管支拡張症,肺水腫などでみられる。粘液性痰は無色透明~白色で,粘度が高くネバネバした性状を示し,気道病変優位慢性閉塞性肺疾患(COPD),急性気管支炎の初期などでみられる。膿性痰は黄緑色で粘度が高くネバネバした性状を示し,呼吸器感染症でみられることが多い。血性痰・喀血は肺がん,気管支拡張症,肺梗塞,びまん性肺胞出血症候群などでみられる。

<一般的治療法>
急性咳嗽の場合には対症療法が特に用いられるが、症状が強い場合や慢性疾患の場合には、環境改善の指導や原因に応じた薬剤の処方がなされる。
痰の場合、漿液性や粘液性の程度の軽いものには痰切れをよくする処方がされ、血痰が見られた場合には内視鏡などで気道粘膜の状態を確認し、原因への対処がされる。